ボランティアの備え、しませんか?

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タイトルの話をする前に、突然ですが、たとえ話をひとつ。

あなたは今、見積の甘い期日で残業が積み重なるデスマーチ進行まっただ中。
客先からのひっきりなしの問い合わせ、理不尽なリテイク、迫り来る期日。
日々業務をこなすのに精一杯。リスキリング? そんな暇があったら眠りたい。

そんな日々が続いています。
そんなとき、上層部が「人手足りないって言ったよね? 新人取ったからどんどん使って!」と「よかれと思って」新人を投入してくれた。してくれてしまった。

「いや、確かに人が足りないとは言ったけど、けど今じゃない!!!」ってなりません?
新人に仕事を与えるにしても、まずどんなことができるのか、何をどこまで任せていいのか考えなければなりません。

今の仕事に加えて、「新人に配慮する」心理的負担と、「新人に任せるための仕事を作る仕事」「新人に仕事を教える仕事」という実務負担が増えるワケです。
……それってとてもしんどいと思いませんか?

被災時のボランティア受け入れは、このたとえ以上に大変だと思うのです。

「何でもするよ」と言われても何ができる人なのか分からない。どこまで頼っていいかもわからない。何を頼んだらいいかも分からない。善意だからこそ、困る。

ボランティアを受け入れる側もボランティア受け入れのプロではないので、すぐに「じゃあ、あれやって」「これやって」とすぐに指示を出すのは難しい。

「じゃあボランティアするなっていうのか?」と思われてしまうかもしれませんが、それは違います。
そこでいざという時のための「ボランティアの備え」なのです。

私は災害ボランティアに携わるのであれば、大きくわけて2つの「備え」は必須だと考えています。
1つは「経験」。そしてもう1つは「保険」です。

突然ですが、みなさんは社会福祉協議会という団体をご存じでしょうか?
地元の福祉施設や病院でのボランティア募集のほか、点字の技術講座やフードバンク事業など、幅広い事業を取り扱っている、いわば「ボランティアの窓口」なのです。
「家の近くで活動して知り合いに会うと恥ずかしいし…」という方は他地区でも大丈夫。

だいぶ昔の話になりますが、私も学生の頃、東京都の小平市や立川市、東村山市など複数の社会福祉協議会からボランティア先を紹介してもらっていました。

今はサイトを持っている市町村社会福祉協議会が多く、たとえば先に名前を出した東村山市社会福祉協議会では「今どんな施設で・どんなボランティアさんを募集しているか」を掲載しています。
試しに閲覧してみていただきたいのですが、募集している案件を見ると「囲碁のお相手」だったり、「演奏の披露」だったりと、「え? そんなことがボランティアになるの?」と驚く方も多いのではないでしょうか。

一般的にボランティアというと、「困りごとを解消する援助」をイメージされがちなのですが、広義のボランティアであれば、「援助」よりも「寄り添い」がメインになります。
支援者はあくまでおまけです。支援を受ける人の生活を彩るパセリみたいなものです。

…と断言するのには理由がありまして。
私が今以上に物を分かっていなかった高校生のころの話です。
「家にいたくない」という気持ちを「人の役に立ちたい」という欺瞞に変えて、長期休暇は塾以外は全部ボランティアに充てていました。

正直、ボランティアに行った…というよりもお世話になった、が正しいですね。
その中のある就労支援施設での出来事です。

ただの高校生である自分は特別に何か支援できるわけでもなく、おまけにコミュ力もないので話を弾ますこともできず、手持ち無沙汰に、ふと目をつけたのが「作業」。
その日の作業はボールペンの組み立てだったのですが、「これなら私でもできる」ってピンと来ちゃったんですよ。

で、鼻息も荒くどんどん作業をこなして、なんならほかの人よりも早くいっぱい作業ができたから、役に立っただろう、と誇った気持ちで1箱終わらせて「どうだ」とばかりに顔を上げて。

テーブルの対面、そこに並んでいたのは無表情の顔でした。
ストンと感情が抜け落ちた、というのはまさにあれを言うんだな、と今でも思い出します。
施設に入ったときはあんなににこやかに話しかけてくれたのに。作業のやり方も丁寧に話してくれたのに。

その時、私は「よくわからないけど、何か間違えた」とうろたえました。
同時に「ちゃんと作業はやったのに、どうして」とも理不尽にも感じました。
なんとも気まずい思いで、その後は時間をどうにかつぶして一日を終えました。

その後、色んな場所でボランティア活動(?)を続けて、経験を積んでいくうちに気付きました。「私はあのとき、彼らの生活を、プライドを踏みにじったのだ」と。
「ボランティア活動先は、自分ができること、やりたいことを見せつける場ではない」のだと。

そもそもに、上述の昔話のケースで言えば、別に労働力として求められているワケではなかった。考えて見れば当たり前の話です。小娘がちょちょっと作業をしてその日の収益が少し増えたとして、だからなんだ、という話です。

利用者の方々の日々の他愛もない話に相づちを打ち、傾聴する。
お茶出しやサポートができればなお良し。
求められていたのはただそれだけのことでした。

ボランティアは裏方、サポートに回るべし。
これは日常でのボランティアだけでなく、災害ボランティアにも言えることだと思います。
被災地に赴いて実際に活動をしたときに、「満足な活動ができていない」と感じて「せっかくわざわざ来たのに」と悪気なく言ってしまう方、結構多いようです。
思ってしまうのは仕方ない、でも言ってはダメなNGワードの6位ぐらいには入ると思います。

自分に置き換えて見るとわかるのですが、「あなたのためを思って」とほかの人にされたことで、「別にそんなこと頼んでないのに」ってイラッとしたことありませんか? まさにソレです。それこそ「せっかく活動したのに」誰も満足できない結果になってしまう。

だからこそ、肩慣らしという訳ではないですが、ボランティアの肌感をつかんでおくために。災害時、ボランティアしに行ったつもりが、「厄介様」になってしまわないために。
ボランティアを常時募集している施設の胸を借りるつもりで、非常時ではなく日常でのボランティア活動で経験を積むことをおすすめしたいのです。

さて、長くなってしまったので2つ目は短めに。
ボランティアをするのであれば、必ずボランティア活動保険に入ってください。
必須です。各市町村の社会福祉協議会で加入することができます。年間保険料はなんと500円(令和6年4月現在)です。安い!
「そんな保険が必要になるようなヘマしないから平気」と思われるかもしれません。
相手を傷つけない、物を壊さない、ケガをしない。確かにある程度自衛することはできるでしょう。

でも、たとえば車椅子の移乗の補助をしていたら、後ろから別の子どもに噛みつかれる、なんて事態を想定して動けますか?ちなみにこれは私が実際に体験したことです。
まあこんな事例でなくても、災害ボランティアであれば、悪路で転んで骨折する、家財を運んでいて落として壊してしまう、なんてことはいくら気をつけていたとしても十分に起こり得ます。

だからこその保険。いいじゃないですか、何もなかったらなかったで。500円ですよ。なんなら活動地に移動する間の飲み物代よりも安いくらいじゃないですか?
ボランティア活動をするなら保険加入をぜひ。

「いざというときの備え」、大事ですよ。

(担当:まつ)