わが長女が踏み入れた新宿2丁目。虹色の交差点『アイデンティティと共生の夜』
この6月で長女は26歳になった。かつての「婚期」という言葉は時代にそぐわなくなったが、彼女の新宿2丁目デビューを機に、私は寛容な心で娘の人生を見守ることを決意した。
「少子化」「晩婚化」「非婚化」が当たり前となった現代。来年、還暦を迎える私には、孫の顔を見たいという素直な願望もあるが、それは今や古い考え方かもしれない。
そんな折、娘の職場に新しい風が吹き込んだ。年上のデザイナーが転職してきたのだ。さっぱりとした性格で、上司にも遠慮なく意見する人物だった。女性らしい感性をあまり好まない娘は、その先輩にすぐに気に入られた。先輩の歓迎会の3次会で、娘は「新宿2丁目」という未知の世界へと誘われることになる。
新宿は、日本一の乗降客数を誇る駅を中心に、都庁や高層ビル群、多くの企業や商業施設が集まる。一方で、隣駅の大久保の韓国街をはじめ、多文化共生の拠点としても知られている。歌舞伎町の闇や「トー横キッズ」「ホスト業界の問題」など社会的な課題も抱えている。
そんな新宿で「2丁目」と言えば、LGBTQコミュニティの聖地として知られる場所だ。娘の体験を通じて、私もその世界を垣間見ることになった。
お笑い好きの長女は、まず店主やスタッフのトーク力に引き込まれたようだ。千葉への引っ越しを考えていた娘に、店主は絶妙な間で「ブス!」と冗談を飛ばし、2丁目流の歓迎を示したという。
中途入社したばかりの先輩が会社で浮いている話をすると、「あんたなんか、浮いて浮いてもう雲も突き抜けて宇宙まで行っちゃえばいいのよ」と、ユーモアたっぷりに返される。その場は笑いに包まれたそうだ。
しかし、長女がもっとも心を打たれたのは、ママやスタッフの言葉の裏に隠れた優しさだった。
アルコールが弱い長女のために、ママは適度なタイミングでブレーキをかけ、そっとソフトドリンクに切り替えてくれる。無理にボトルをキープしようとすると、「あんたはこれにしておきなさい」と、手頃な価格の「鏡月」を勧めてくれるのだ。
2丁目の店では、客同士の会話も弾み、多様なアイデンティティが共存している。会社以外の社会を知らない者には想像もつかない、まさに虹色の世界だ。
ストレスで疲れ切っていた娘だが、2丁目に通い始めてからは体調も良くなったという。
思いがけず触れた、虹色の夜の世界。父として、娘の幸せを既成概念や偏見にとらわれずに考え、心から楽しい時間を過ごしてほしいと思う今日この頃である。
(petit lover兄)